『須田さん!』
私と弦の声が重なる。
「須田さん、逃げないで!あの時お互い言葉が足りなくて売り言葉に買い言葉で
別れたんですよね。でもお二人の思いは同じ場所にあるんですよ。
そんな二人がなぜ別れなきゃならないんですか?」
須田さんは下を向いたまま黙って私の話を聞いていた。
「私、江里子さんのお家に行ったんです。そしたらね、この家に
何となく雰囲気が似てるなって感じたんです。玄関先に飾ってあった
木のおもちゃ・・・あれは須田さんが作ったものばかりでした。
本当に好きじゃなきゃ全部捨ててます。女なんてそんなもんですよ。
江里子さんは今日、須田さんともう一度だけちゃんと話をしたいって
思ってここに来たんです。だから須田さんもちゃんと向き合ってください。」
「千鶴ちゃん」
「須田さん。俺からも頼みます。須田さんには江里子さんが必要だって
俺、よくわかってますし、江里子さんも須田さんが必要だって知ってますから。」
「弦君・・・」
江里子さんは一歩前に出て須田さんの前まで来ると
「ここまで私が来てやったんだから話しあい・・・しましょうよ」
あれれ?さっきまでの江里子さんと何だかキャラが違うような・・・
「上等だ!お前に言いたい事は山ほどあるからな」
「あら?それは私の台詞よ!」
須田さんも江里子さんもなんだか私の知ってる人と違う人物に見える。
私は弦腕をつつくと
ニヤリと笑い
「多分、あれが素だと思うよ。」
「ええええ?!」
「とりあえず、俺らは一旦帰ろう~」
どんな話をするのか気にはなったがどう考えても私たちはお邪魔の様なので
そのまま家を出た。