「兄貴のこと、気づいてたんですか?」
少し落ち着いた私は、小さく頷く。
「いつから?」
“半年くらい前”、そう私が答えると彼は驚きながら私を見つめた。
チャポン……ーーー
お湯の落ちる音が静かに響く。
「ずっとね、知らない振りをしてたの。
私が我慢すれば、何も問題ないって。」
恥ずかしくて目は合わせられないけど、絡めるように握られた手はそのままで私は話した。
誰にも言わなかったこと、全部。
彼はずっと黙って、私を見つめたまま聞いてくれた。
「競争率の高かったあの人とやっとのことで結婚したのに、離婚…そんなの絶対ダメって…もしかしたら、変なプライドがあったのかも…」
その為なら、浮気なんて我慢すればいい。
「バカだよね、私…」
自嘲気味に笑って言った私を、彼はぎゅっと抱き締めた。
お湯が大きく波打つ…
「つらかったですよね…佐和さん。」
「隼斗くん…」
「最低だ、兄貴の野郎…。」
声の質で分かる、彼が怒ってること。
兄嫁をこんなに心配してくれるなんて嬉しい。
でも、さすがにこんな感じで甘えるわけにはいかないよ。
「隼斗くん…ごめんね、心配してくれて。
ありがと…私…先に上がるね。」
たまたま近くにあったタオルを手に、湯船から出ようと立ち上がった。
と、同時に再び私は後ろから抱きすくめられていた。
お湯の中とは違う。
濡れた素肌を直接触れる。
その時私は思った。
この腕にずっと抱き締められていたい…
もっと違う形で彼と出逢いたかった。



