「な、なに……それ……」
「あっ、おい!」
予想もしてなかった言葉にそれまで張っていた気が一瞬で緩み、私は膝から崩れ落ちてしまった。
ふらふらと座り込む私を谷崎は優しくふわっと抱き止めた。
……妹って……、そんな、それじゃあ私、ひとりで勘違いしてひとりで焦って……、
「バカみたいじゃない……」
「まあ、いいんじゃねぇか。
事情も聞かずに飛び出していくほど、嫉妬して傷ついて、それって俺のこと好きで好きでたまらないってことだろ?」
そう言って谷崎は、にやりとお得意の意地の悪い笑みを浮かべた。いつもならむかつくその顔が、なぜか、かっこよくみえて、不覚にもときめいてしまったのだから、これはもう重症だ。
力強い腕に抱かれて、谷崎の控えめな香水のにおいを胸いっぱいに吸い込むと、泣きそうなほどに安心する。私はべつに惚れやすいタイプではなかったはずなのに、短期間で大嫌いだったやつがこんなにも愛しく思えてくるなんて、おかしな話だ。でももう隠しようがない。少し抱きしめられているだけでこんなにもドキドキと高鳴る。それくらいに谷崎を好きになってしまった。
「そういえば、俺まだ聞いてないんだけど。
……お前は俺に惚れてるのか?」
谷崎が好きだなと考えた瞬間、谷崎がにやりと微笑みながらそう言った。その笑顔はさっきの笑顔よりもむかついたけど、私だけドキドキしてるのは癪にさわる。
「……好き、大好きよ。
ずっとこうしていたいって思うくらい大好き。だから、谷崎も私と同じくらいもっと私のこと好きになって?」
いつもの私なら考えられないような甘い声で谷崎の耳もとで言ってやった。おまけに頬にキスも添えて。


