「また……っ、なんで……」
長く深く塞がれた唇が離されたのは、息が苦しくなってきたころ。必死に谷崎の胸を押して体を引き離した。
教えてやるって言ったのに……また、キスをして、本当になに考えてるの?
こんなに、少し動いただけで触れあえる距離にいるのに、谷崎の考えていることがまったくわからない。
谷崎は戸惑う私をまた抱きしめて、耳元に口を近づけた。
「……目に涙を溜めながら、それでも負けず嫌いで人に泣いてるところを見られたくないから必死で我慢してるところ。」
「え……?」
「おっさんが好きそうな酒のつまみが好きで、美味しそうに頬張って幸せそうに笑うところ。俺のこと嫌いだって言うくせに、来いって言ったら、素直に見舞いに来てくれるところ。
……ちょっとキスしたぐらいでそうやって、真っ赤になって、焦って俯くところ。」
「な、なによ、さっきから!べつになにを食べようと私の勝手でしょ!お見舞いだって、あんたが心配で……!」
必死になって言い訳をしたところで、気がついた。こんな言い方したら、谷崎が好きだって言ってるようなもの。そのことに気づいた瞬間、谷崎を見ると、目を細め、いつもの笑顔を浮かべていた。
……引っ掛かった。まんまと騙された。谷崎は私のことをからかっただけなのに、必死になって恥ずかしい帰りたい……
「……ただの風邪なのに、心配して、来てくれるところ。爆発して、言いたいことを言った後、恥ずかしくなって、涙目になるところ。
そういう、お前の言動の全てが可愛くて仕方ない。」
「また、からかってるんでしょ!もう騙されないから!」
キッと睨むとさらに谷崎は笑った。


