「……俺だって、赴任してお前を見つける前まではすっかり忘れてたよ。」
悲しそうに笑ったまま、ぽつぽつと話し始めた谷崎。
あまりにも苦しそうに真剣な目で見つめるから、私は谷崎から目が離せなくなった。
玄関で二人して泣きそうな顔をして、もしかしたら誰かが通るかもしれないのに。でも、そのときの私は谷崎以外のことを考えられる余裕なんてなかった。そんな余裕のない頭で、ぼーっとしながら、谷崎の次の言葉を待った。
「……あのとき、合コンに行ったとき、俺は教員免許を取った直後だった。教師は小学校のころからの夢だったから取れてほっとしたよ。でも、具体的にどんな教師になりたいのか、明確な次の夢が見えてこなかった。」
ひとつひとつ、言葉を選ぶのに必死な様子でゆっくりと話す谷崎。
……谷崎、手が震えてる。できることなら、その手をとって、抱きしめてあげたい。でも、そんな勇気は私にはないから、今、私にできるのは、このまま谷崎の話を聞くこと。
谷崎を見つめて、次の言葉を待つと、谷崎がまたゆっくりと話し始める。
「……悩んで、どうしていいかわからなくなってたとき、気分転換に、って誘われた合コンに行ったら、お前に会ったんだ。」


