「じゃあね。先生、またあとで!」
「はいはい、ほら早く戻らないと
授業遅れるよ。」
保健室の扉が開く音と共に聞こえてきた
男女の声。
……いつもと変わらない、聖司の優しい声。
でもそれは私に向けられたものじゃない。
笑顔で去っていくあの生徒に向けられたもの。
さっきまで、生徒に彼氏をとられた
衝撃と、谷崎とのキスで混乱して、
なにも考えられなかったけど、
……やだ。嫌だ。聖司の、
あんな男のことで泣きたくないのに……っ
そう思っていても、一度出た涙は、
なかなか止まってくれない。
「……さっきまでの威勢はどこにいったんだ?」
私が泣いていることに気がついたのか、
後ろからそんな声が聞こえてきた。
……どうせまた面白がってるんでしょ。
彼氏の浮気も見抜けなかった
バカな女だって思ってるんでしょ。
「……もう、ほっといてよ」
自分でも驚くほど声が震えていた。
ああ、もう最悪。
浮気男が原因で泣きたくないのに、
谷崎の前で、こんなやつの前で
泣きたくないのに……っ
まだ授業があるのか、
今私達が隠れている階段とは別の階段のほうに歩いていく聖司に気づかれないように声を殺して泣いた。
「……悔しいんだろ?
だったら、する?」


