走って走って、着いたのは数時間前に居た谷崎の家。
扉の前で、走ったせいで乱れてしまった髪と息を整える。何度か大きく深呼吸をして、今日二回目のインターホンを押す。
「……谷崎?」
控えめに呼んだ谷崎の名前。その声に、谷崎は何も反応してくれない。
……まだ、あの女の人いるのかな。だとしたら私は邪魔者かも……いやいや、まだあの人が彼女だって決まった訳じゃないし、いちいち落ち込むのやめよ!
自分にそう言い聞かせ、私はさっきりも力強く、もう一度インターホンを押した。
少し待ってみたけど、やっぱり声は聞こえなかった。
……出てくれない。出掛けたの?あの人と?
また落ち込みそうになったとき、徐に扉が開いた。
「……なんだよ。謝りにでも来たのか?」
まだ怒っている様子でむすっとした表情で腕を組ながら、出てきた谷崎。眉間にはまだ深いシワが刻まれている。
「……さっきの女の人は?もういいの?」
こんなこと言いたいんじゃないのに、口をついて出てきた言葉はそれだった。
……違う。なに言ってるのよ、こんなこと言いたいんじゃなくて……
どうしよう、こんなんじゃ嫌われる……
俯いてなにも言わなくなってしまった私に谷崎は落ち着いたように言った。
「……何しに来たんだよ。怒らないから、とりあえず言いたいこと言ってみろ。」
聞いたことのない谷崎の優しい声に押されて、私は小さな声で話し始めた。


