「今にも泣きそうな顔見てると、ご飯も不味くなるんだけど。」
「……ごめんなさい。」
不味くなる、と言いつつも、注文した海鮮丼を美味しそうに頬張る香織。
一息つくと、黒目がちの目を細め、私を睨む。
谷崎の家を出たあと、私は一目散に香織に電話をかけた。
私の性格上、谷崎が原因でこんなにも苦しいことを認めたくなかった。泣きたくなかった。でもせめてなんでもいいから話したくなった。そんなときは香織の出番。私のことを誰よりも知っててくれている。
電話越しに涙声でそう伝えると、香織は呆れながらも優しい声で「前に行った居酒屋に7時に集合。一秒でも遅れたら許さない。」と言って、本当に7時ぴったりに来てくれた。
「いやあ、本当に香織様大好きです!」
「それ、私にじゃなくて谷崎さんに言うべき言葉でしょ。」
「……谷崎はべつにそういうのじゃないし、それにあいつにも彼女いるし。」
俯きながらぼそぼそと喋る私に香織は呆れた表情で私を見た。
香織の言いたいことはわかってる。この感情がなんなのか、わからないほど馬鹿じゃない。
……でも、これは私だけの問題じゃない。私の気持ちでどうにかなるようなことじゃない。
それもわかってるから、こんなめんどくさいことになってる。
分かりやすく落ち込んで、ちびちびとビールを飲む私に、しびれを切らした香織はテーブルの上に置いてあった私の携帯を取った。
「まだ正体もわかってない女の影にビクビクしてるなら、もうそれはそういうことでしょ。
それに、あんたにだって彼氏がいるんだからひとのこと言えないわよ。
だからもう、この際はっきりしなさい!紳士のふりした詐欺師か、詐欺師のふりした紳士か。」