腹黒教師の甘い策略




綺麗に片付いた部屋が静まり返る。なんとなく虚しさを感じていたとき、玄関に無造作に置かれた袋が目について、買ってきた林檎とスポーツドリンクの存在を思い出した。



そうだ。谷崎が起きたとき食べれるように、林檎切っておこう。


そう思い立って、キッチンに立つ。勝手に棚や引き出しを開けるのは悪いかなと思いつつも心のなかで謝りながら包丁とおろし器を探す。


「……有沢。」


「えっ、」


レンジの横の棚に入っていた包丁を見つけた時、ソファーで寝ている谷崎がぼそっと呟いた。


今、谷崎、私の名前、


「有沢……。」


何度も何度も私の名前を呼ぶ谷崎。寝ぼけているだけなんだろうけど、なんとなく無視できなくて、ソファーに寝転ぶ谷崎に近寄る。すると、さっきまで穏やかに眠っていたはずの谷崎が苦しそうに荒く呼吸をしていた。


……つらそう。


起こさないように、そっと額に触れてみると、瞬時に熱が伝わってくる。


「うわ、すごい熱……。」


触れた指先から腕を伝って、かけあがってきそうなほどの熱に驚いて、慌てて買ってきた冷却シートを谷崎の額に貼る。


……これで少しは楽になるといいけど。