「遅い。」
「……遅いって、あんたインターホンあるんだからそれでしゃべってよ。心配したんだけど!」
なぜか不機嫌そうな顔で出てきた谷崎に、怒りをぶつけてやった。
……不機嫌なのは私の方よ。
なんであんたが遅いって怒ってんのよ。
まだ収まらない怒りを伝えようと谷崎を睨む。
「そんな見つめてないで早く入れよ。」
「……前も言ったけど見つめてるんじゃなくて睨んでるの!」
……こいつにはいつもなぜか怒りが伝わらない。
イライラしながらも、部屋のなかに誘導され、大人しくお邪魔する。
「……これは、」
部屋に足を踏み入れた直後、足になにかがあたった感触に下を見ると、いつのものかわからない空になったカップ麺の容器が足元に転がっていた。
前を見ると服や、ペットボトル、これまたいつのものかわからない複数のコップにお箸。
……男の一人暮らしってことを差し引いてもこれはひどい。
「……谷崎」
「なんだよ。」
「こんな部屋で休んでたってよくなるわけないでしょ!て言うかこれいつのカップ麺よ!とりあえず片付けるから、あんたはソファーで寝てて!」
おそらく私は今鬼のような形相で谷崎を睨んでいるんだろう。
鏡を見なくてもなんとなくわかる。だっていつもすました顔の谷崎が目を見開いて、見たこともないくらい驚いた顔をしてるから。


