「……ついちゃった。」
谷崎から教えられた住所をたどってついたのは、白く綺麗な外観のマンション。
玄関ホールに足を踏み込むと、私のヒールの音が妙に高く響いて、何とも言えない緊張感が私を包んだ。
緊張で少し震える足を落ち着かせて、谷崎に教えてもらった部屋を目指してエレベーターに乗る。
……あーあ、今さらだけど私なんで来ちゃったんだろ。
べつにあいつの言うことなんて無視しとけばよかったのに。
……帰りたいのに、無視したいのに、できないのは、したくないのは、
「たぶんそういうことなんだろうなあ…。」
一人きりのエレベーターのなかで、ぼそっとそう呟くと、すとんと、なにかが落ち着いた気持ちになった。
……余計なことは考えないでおこう。
今はとりあえず谷崎の顔を見に行って、大丈夫そうならすぐ帰ろ。
そう決意して、エレベーターをおりて、
谷崎、と書かれた表札の前に立つ。
……大丈夫。私はなんでもできる!できる!
自分自身に言い聞かせて意を決してインターホンを押した。ところがインターホンからは数分経っても谷崎の声が聞こえてこない。
「……ちょっと、谷崎、大丈夫なの?」
もしかしたら高熱で動けないんじゃないかと心配してインターホンに向かって声をかけた瞬間に、慌ただしく扉が開いた。


