腹黒教師の甘い策略




家、谷崎の家。


考え込みながら門に向かって廊下を歩いていると、今から帰るのか、安野先生も門の方向に歩いているのを見つけた。

向こうもこっちに気づいたのか、安野先生はにっこり笑って胸の前で小さくガッツポーズを作ってみせた。


……なにその、“頑張って下さい!”みたいないい笑顔。


たかが、お見舞いよ、お見舞い!


そう思いながらも、無意識のうちに手ぐしで髪を整えている自分に気付いて、慌てて平然を装う。


「……なにしてんだか。」


少し恥ずかしく思いながら、学校から意外と近距離にある谷崎の家を目指す。


……この辺りにスーパーとかあったっけ。


谷崎の家に向かっている途中、手ぶらで行くのは気が引けて近くのコンビニに寄った。


「谷崎って、嫌いな食べ物とかあるのかな……。」



果物コーナーで無難に林檎を選び、スポーツドリンクと冷却シートもかごのなかに入れる。


林檎、嫌いじゃないといいけど。
……なんか、これって、


「新婚みたい。」


ぼそっと呟いた瞬間に、自分でもわかるくらい顔に熱が集中する。
自分で言い出したことなのに、急に恥ずかしくなった私は慌てて会計を済ませ、コンビニを出た。

……ないないない!
新婚って!谷崎と私に限ってそれはない。絶対にない。

強く否定する度に、自分がそれほどまでに谷崎を意識しているんだと自覚して、また顔が熱くなった。