「……有沢先生、提案があるんだけど。」
「……提案?」
微笑む谷崎に不安が募る。
どうしよう、嫌な予感しかしない。
私は息をのんで、
谷崎の次の言葉を待つ。
「……俺と浮気しませんか?」
「……は?」
なに言ってるんですか?
そう反論しようとしたとき、
唇にかすかな温もりを感じた。
その温もりはだんだんと熱くなる。
……うそ。まさか私、今、
谷崎とキスしちゃってる……。
私は慌てて谷崎の胸をおしてみるも、
びくともしない。
こんなとこ、偶然通りかかった人にでも見られたら……!
「声……、出せ。
……戸川に、聞こえるように。」
「な……っ」
その言葉を引き金に慌てて離れる。
肩を上下し、息をする私と裏腹に、
谷崎は呼吸を全く乱すことなく、
微笑んでいる。
「なに、考えてんの!
どうしていきなりこんなこと……っ」
「お前が敬語はずすとこ、
初めて見た。
……気分が悪かったから次の授業まで
保健室で寝させてもらおうと思って
ここに来たんだが、
……面白いことになりそうだな?」
そう言って谷崎はメガネをかけ直し、
尚も微笑みながら、私を見つめてくる。
なんで、
よりによって浮気された直後に、
大嫌いなこいつとキスなんて……


