「たに、ざき…」
「なに驚いた顔してんだよ。
…まさか、逃げようなんて考えてないよな?」
谷崎のその言葉に私はビクッと肩を震わせた。
…なんで来ちゃうのよ。
タイミング悪すぎ。
監視でもしてたんじゃないの!?
心の中では強気でも、
谷崎の射貫くような視線と威圧感に怯える私。
「…ったく、何がそんなに怖いんだよ。
ただ誘っただけじゃねぇか。」
どんな仕打ちが待っているんだろうと、
怯えていた私の耳に入ってきたのは、
どことなく弱々しい谷崎の声。
…なに、今の…
「…そんなに嫌かよ、俺と出掛けるの。」
「え、いや…嫌って言うか、その…」
聞いたことのない弱々しい声の谷崎。
恐る恐る顔色を伺うと、
これまた見たことのない悲しそうな顔。
…なに、急に…
なんでそんな顔するの。
その、傷ついてますって顔、やめてよ…
なんか、調子狂う…
「まあ、嫌って言っても無理矢理、
連れていくけど。」
「…は?」
悲しそうな顔から一転、
いつも通りの怪しげな笑顔を浮かべ、
そう言った谷崎の言葉に間抜けな声を出す私。
…私のバカ。
こいつが悲しそうな顔なんて、
するわけなかった。
なのに簡単に信じちゃうなんて、
…やっぱり谷崎なんて大嫌い!


