■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【蓮─カツラギレン─side】





ぱちぱちぱち...。


なりやまない拍手。





拍手を俺に送り続ける観客たちは、揃ってこれからダイヤモンドになるであろう原石をみつけたような顔で俺をみつめている。


『最年少での医学論文コンクール金賞獲得おめでとうございます!』




顔に脂がどっぷりとついた中年のおじさんがマイクをこちらにむけてくる。


「どうもありがとうございます。このような素晴らしい賞を頂くことができ、とても光栄です。」






頭に思いつくだけの原石らしい言葉を並べる。





『すごいですよね、まだ17歳なのにこんな賞を受賞してしまうなんて。っとこうなると、将来の夢はもしかして...?』






「はい。父のような立派な医者になることが、僕の夢です。」







『あ、そうでしたね!葛城くんのお父様は確か
あの有名外科医の葛城荘平さんでしたね。お父様はこんな立派な息子がいて鼻が高いでしょうね。』




照明の暑さで先程よりも顔の脂が増してる司会者。





それにしても俺、今日ちゃんと





笑えてるかな。嬉しそうかな。



あー。こんなこと考えるだけで頭痛くなってきた。





もう少しで授賞式がおわる。






早くこの苦痛な時間から開放されたい。





でも....




いいんだ、これが俺 ー葛城蓮ー なんだろうから。






父親は某有名大学病院の外科医。

そして小さい頃からお金に全く苦労せずすくすくと育った母親。




「おかえりなさい、蓮くん」



表彰式を終え家に帰るとニッコリと可愛らしい笑顔をむけてくる母親。





「ただいま、お母さん」

おれもニッコリと笑顔をかえす。


テーブルの上にはたくさんの色鮮やかな料理が並べられている。




「蓮くんのためにたくさん花さんがごちそう作ってくれたのよ」



キッチンにたつ家政婦の頬が少しだけ赤くなるのがみえた。






照れることなんて、おれ生まれてこのかたあったっけ。







「蓮」


ぼーっとそんなことを考えていると聞きなれた声が俺の耳を汚した。





「あ、お父さん今帰りました」



「そうか。おめでとう金賞」



祝福の感情を1ミリたりとも感じさせない態度でお殿様は、俺を見る





「ほら荘平さん、蓮くん座って?ご飯食べましょ」




早く、ここから抜け出したい。







葛城蓮なんて捨てて『おれ』として生きたい。








「蓮、今度うちの大学の学会でドラッグについての講演があるんだがそれにお前も出席してみないか?」





「ドラッグの講演?」



「もちろん、聞く側じゃなくて現代の若者の代表として」



俺の気持ちを考えなし次の話題をもってくる


「ドラッグ?最近薬に手を汚す若い子達増えてるものねぇ。蓮くん出席してみたら?」







「ま、もちろんなにも勉強もせずって言うのは無理だからしっかりドラッグについて勉強して出席するように」







俺をそっちのけでその話を進めるふたり。



「僕、もうお腹いっぱいかな、ごちそうさま」




いい加減にしろよ。そんな意味をこめて、
俺は駆け足で2階にあがり自分の部屋に入る。





「あーあー。つかれた」



今日のステージがなのか、生きることになのか、この時のおれはどっちのこと言ってたんだろう。




「もう.....つかれた」







でも俺は葛城蓮を捨てられない。



きっと自分自身でいるよりも、葛城蓮でいたほうがずっと楽で、ずっと幸せだから。




きっと俺を好きになってくれる人はいないんだろうな。



俺はそっと目を閉じて深く眠る。

また起きたら葛城蓮なのだから。




俺はただそっと、目を閉じて、今を生きる。


それしかできないのだから