ヘナヘナと近くのベッドに倒れ込む先生。
どうやら怪我をした本人よりも大分重症なようだ。
「先生…なんでそんな血が苦手なくせに、保健室の先生になんてなったんですか?」
「…君、それ何回聞くの」
ベッドに倒れ込んだまま、じとっとした視線を私にむける先生。
「何度も言うけど、知らなかったんだよ!
…まさか自分が、こんなに血が苦手だなんて…そして、まさかこの世に、こんなに日常的に怪我する人間がいるなんて」
「悪かったですね、こんなにドジな生徒がいて」
私のドジは間違いなく遺伝だと思う。
だってお母さんもお父さんもドジだもん。でもそれを里中先生に言ったら、「そんなもの遺伝してたまるか」と一蹴された。
「…ねぇ、センセー」
ヨロヨロとベッドから起き上がり、再び机の上のパソコンに向き合う背中に問いかける。
「3年生になっても、先生いるよね?異動とかしないよね?」
私は春が大っ嫌い。花粉は舞うし虫出てくるし、何より…先生たちの人事異動があるから。
でも、そんな私の質問に彼は答えない。
カタカタと、パソコンのキーを打つ音だけが保健室に響く。
「ねぇ先生ってば」
待ちきれなくて先生の隣に立つと、ふぅ、とため息混じりに彼が視線をあげた。
「ずっとここにいるよね?」
瞳をあわせたまま、もう一度問いかける。
でも、先生はさっと私から視線を逸らして、怠そうな口調で言った。
「いないよ。俺はもうここにはいない」
「…え…そ、そうなの!?異動するの!?どこ行っちゃうの!?」
3回目の春。ついに恐れていたことが起きた。
先生の行く高校に、私も転校しよう!なんてバカなことを、一瞬本気で考える。
だけどそれすら叶わないことを…次の瞬間、思い知らされた。
「そうじゃなくて…俺、教師やめるから」