ふぅ、とひとつ深呼吸をして、勢いよく保健室のドアを開けた。
「失礼します…あれ」
誰もいない。
でも電気はついてるし、ちょっとだけ留守にしてるだけなのかな。
そんなことを考えながら辺りを見渡した私の視線が、ベッドに寝転がるある人物にひきつけられる。
生徒じゃ…ない。
「…せ、先生…?」
靴を履いたままベッドにゴロンと寝転がる人物は、紛れもなく里中先生だった。
いつもの白衣姿ではなく、ラフなチェックのシャツを着ている。
せ、先生が…何でここに!?
静かに近づくと、すーすーと気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。
…爆睡、してる…?
「…先生…何してんの、こんなとこで…」
そう誰にも聞かれることのない呟きを漏らしながら、そっと先生の前髪に触れる。
日本人にしては大分茶色っぽい髪の毛は、先生は一貫して「地毛だ!」と主張していたけど、生徒からはかなり疑われてて、黒染めするか真剣に悩んでいたっけ。
「サラサラ…」
…もう会えないと思ってた。
荷物でも取りに来たんだろうか。
まさかもう一度会えるなんて…会っちゃうなんて。
「…もっと名残惜しくなっちゃうじゃん」
…バカ。せっかく諦めようと思ったのに。
「先生……大好きだよ」
「……人の寝込み襲ってんなよ」
「えっ…」
突然グイッと手首をつかまれたと思ったら、あっという間に視界が反転した。
茶色い切れ長の瞳が、真上から私を見据える。



