僕は、保健委員としていつの間か決定されていて、面倒ながらも放課後残って仕事をしていた。きっと、僕が居眠りをしている間に、勝手に決めたのだろう。
「はぁ…、もう帰るか。」
そして今も、少し眠ってしまっていた。もうとっくに会議も仕事も終わっていて、誰一人いなかった。僕は人よりよく寝る。だから、授業中や放課後、1人になることが多かった。
「あ、教室にスマホ忘れた。」
もう午後6時半を過ぎている。さすがに誰もいないだろう。そんな学校も悪くない。僕だけの学校。
「……ん?」
何か物音が聞こえる。まだ誰か、残っているとだろうか。
そっと教室を覗いたとき、見えた。そこに居たのは、嘉景 百合。僕が最も嫌いな奴だった。
でも、いつもと違ったことがある。窓際の席である僕の机の上に座って、静かに泣いていた。いや、違う。そう見えただけで、彼女の瞳から涙は溢れていなかった。そんな彼女の姿は、とても綺麗だったが、同時に腹が立った。
そんな表情をしているのなら、泣けばいい。1人でいるときくらい、涙を流してしまえばいい。
彼女のことは、まだよく知らない。だから、泣かない理由も知らない。でも、そこまで我慢するほどの理由があるのだろうか。
人前では「恥ずかしい」という感情のせいで、泣けないかもしれない。けど、彼女は1人ですら泣かない。そこまでさせている理由が知りたくなった。
「なんで、泣かないの。」
ドアの近くから、できるだけそっと、感情的にならないように声をかけた。
彼女は別に驚いた風もなく、ゆっくりとコッチを向いた。
