「はーい。今日は春なので、桜を描いてもらいまーす。」
顧問のユルい声が美術室に響く。
「先生は職員会議があるからいないけど、春川さんよろしくね!」
はーい。と軽く返事をすれば。
「じゃ、きれいな桜描いてねー」
と足早に行ってしまった。
「今年も相変わらずですね。まりえちゃん。」
前に座っている子が私に言った。
「そうだね.....」
少し飽きれぎみに私は返す。
桜か.....描きたくないなぁ。
いつも自由なのになんで今日に限って......
となりに座る冬花ちゃんはすらすらと描き始めていた。
まぁ、いいか。適当で。そう思い、さっさっと描いていく。
時々話しかけてくる部員と話している冬花ちゃんはとても嬉しそうだった。
描いてしゃべって描いてしゃべって。それを繰り返すうちに部活終了時刻となった。
適当に仕上げた絵をひとつの場所に集め、置く。
「じゃーまったねー!咲ー冬花ちゃん!」
次々と帰っていく部員たち。
「冬花ちゃん、ごめん。今日行かなきゃならないとこがあって....」
「うん。大丈夫だよ。さ、、咲葉ちゃん.....」
ずっと『春川さん』だったのに。
それに、どこか距離を感じていた。
「ありがとう。冬花ちゃん。」
「私も、ありがとう。また、明日ね。」
“また明日”あの日からこの言葉は好きじゃなかったけど。
今だけ。好きだと思えた。
遠ざかっていく、冬花ちゃんの背中を見つめて思う。
私も行くか。
あの場所へ............
