アイロニ




夏樹に連れて来られたのは、以前草太くんと一緒に来た海。


気分転換に海か・・・。


まだシーズンには早いのに。


「ふふっ・・・」


一人でそう思っていると不覚にも笑顔がこぼれる。


「何一人でニヤニヤしてんのさ」


「ニヤニヤなんてしてないよ・・・!」


「こうやってさ、海に入らずにただそれを見ながら潮風に当たるのってすごく気持ちいいよね」


「わかる」


心を落ち着かせてくれる波の音。


大きな夕日。


鼻をくすぐる潮の風。


ゆっくりと目を閉じる。


今は何も考えたくない。


そう思っているのに、遠くで聞こえるバイクのエンジン音に耳が傾く。


「今、バイクの音聞こえなかった?」


「え?あたしは何も聞こえなかったけど・・・」


薄暗くなってきた景色に映える赤いテールランプ。


つい先日に見たものを忘れてしまうほど、私もバカではない。


はっきりと覚えてる。


あれは紛れもなくバイクだ。