そして……今も、私がちゃんと思うように体が動かないなりに
この場所に居続けることが出来るのは、和花ちゃんが居てくれるから。

和花ちゃんが傍に居てくれるから、
今も勉強に取り残されることなく、過ごすことが出来て
もう一度、学校に通うことが出来てる。


一人じゃ、一人ぼっちのままじゃこんなこと、
絶対に踏み出せなかった私の未来の一歩。



和花ちゃんのおかげで授業に取り残されることなく
学校にもう一度通うことが出来た。


だけど心は正直で、氷雨くんと連絡が繋がらなくなった時から
少しずつ、体が思い通りに動かなくなって心配ばかりかけてた。

世界がまた色褪せていくみたいで、
凄く凄く怖い、そんな感覚が私を金縛るように支配していく。




二月。


学期末試験が終わった後は
休みの日が多いフローシア学院。



登校日じゃない今日も私には何処にも出掛ける予定はなくて、
お世話をしてくれる今井さんにお茶を入れて貰いながら
一人、部屋の中で過ごしていた。



氷雨がいないと、外に出る予定は作れない。


一人では外の世界に出る勇気はないし、
一度、温もりを知ってしまって私は弱くなってしまったみたいに感じるから。



和花ちゃんが、お土産のお菓子をテーブルに広げながら
椅子に腰かけると今井さんがすかさず、紅茶を入れてくれた。




「はいっ。
 とりあえず、これでも食べて」



そうやって和花ちゃんが目の前に置いてくれたのは、
苺が可愛い、ショートケーキ。


生クリームは、薄桃かかっていて
苺には真っ白な粉砂糖が降らせてた。




「美味しそう」




そう言って、和花ちゃんに話しかけながら
フォークを使ってケーキを食べやすいように切り分ける。



「良かった。
 ずっと、妃彩ちゃんの元気がなかったから。

 今日はね、このケーキの為に私、二時間並んで来たの。
 でも妃彩ちゃんが喜んでくれたら二時間待ちなんてどうってことないわね」



そう言いながら、ストロベリーチョコにラズベリーが添えられている
ケーキを和香ちゃんも食べてた。




本当は……あんまり食欲ないけど頑張って食べなきゃ。
和花ちゃんが買ってきてくれたものだから。



そう思って最後まで食べようと試みても、
食べきることなくは出来なくてギブアップ。


三分の一くらい食べて、残りは後で食べると告げて
今井さんに片づけて貰った。




あの日から食事も思うようにとれない私は、
ちょっと体重が落ち始めているのか、
時折、青白い血管がくっきりと浮き上がってる。




皆に心配ばかりかけてる私。



自分自身が許せなくて……自分でちやんとやろうと思えば思うほど
悪化し続ける感じがした。



携帯電話を引き寄せる。




氷雨からの最後のメールを閉じて、
再び、電話帳から開く氷雨の電話番号。




何度も何度も切り返しかけても留守番電話に直行。


鳴らない携帯電話。


溜息をつきながら、
氷雨から貰った大切な宝物に順番に視線を向ける。


新しく作った写真立てには紅蓮の皆とイヴの前日に遊んだ
写真が沢山、飾られてる。




氷雨との距離が縮まったって思えた大切な時間だから。