「お母様の事は恨んでいましたか？」


この質問に対してだけは違った。


「母を恨む理由がありません」と優子さんは答えたが、その瞬間左眉が若干上へ動き黒目も大きくなったように見えた。


私の思い過ぎだと言われれば否定も出来ないが、今までの経験から言ってあの返答には裏があるように感じる。


だとしても、一番私が知りたかったのは浅井綾香についてだった。


この名前をだし何かしらの反応を見せれば通り魔事件と浅井綾香失踪との間に接点が結ばれる可能性がでてくると予想していたからだ。


今はまだ小さな疑惑を胸に抱いているが、それが今日大きな疑惑へ変わる事を期待していた。


もしそうならば、浅井綾香失踪を調べるという名目で通り魔事件についても堂々と捜査ができるからだ。


だが結果は、無残なモノだった。


優子さんの浅井綾香についての証言には嘘偽りがないと感じたからだ。


結局のところ俺の思い込みかと落胆の色を隠せずにはいられなかった。


一先ず漫画喫茶を出て署に戻ろうとした所で携帯の着信音が響く。


「もしもし。杉村ですが・・」


「もしもし。金井美加と言います。先日浅井綾香さんの自宅前で名刺を頂いた者です。」


杉村はすぐに思い出した。あの時の高校生かと。


「どうしましたか？」


「あの、綾香について私達なりに探してみたんですけど、気になる事がありまして・・」


「気になる事とは？」


ここで一瞬間が空き「会って話すことは可能でしょうか？」と聞いてきた。


杉村は二つ返事で了解し、太田駅北口にて落ち合う事になった。