ただそんな優子の考えを見抜いたのか先ほどとは杉村の雰囲気が変わったように感じた。


「こんな話をしてしまい申し訳ありません。話が変わってしまうのですが、”浅井綾香”という女性はご存知ですか?」


”浅井綾香”


だれ?わからない。こればかりはまったく見当がつかなかった。


「いえ。知りません。この方がどうかしたんですか?」


杉村は一呼吸置いて答えた。


「太田北高校に通うあなたと同い年の女性です。今行方がわからなくなっていまして捜索願いが出されています。何か些細なことでも構いませんので情報があればと思いまして・・」


「多分私のクラスにはその名前の方はいないので今まで気付かなかったのだと思います。」


「そうでしたか。それは失礼致しました。お聞きしたかった事は以上です。お忙しい所お時間取らせてしまい申し輪ありませんでした。」


優子は軽くお辞儀をし席を立ち出口へと歩き出した。


杉村も立ち上がり優子の座っていたイスに目をやると携帯電話がそばに落ちている。


杉村は携帯を拾い上げ優子に「携帯落としてますよ」と叫んだ。


優子はポケットに手を入れ携帯がないことに気付き小走りでこちらに戻ってくる。


優子の携帯には皮で編んだ可愛らしいストラップが付いていた。


ストラップの金属の部分には”T.H”とイニシャルらしきものが彫られている。


「すみません。ポケットから落ちてたみたいです。」


携帯を優子に渡しもう1度お辞儀をし優子は去っていった。