少し歩いて、また家のそばまで帰ってきた。
時間も時間だ。空腹にもなる。

「緑間くん、ありがとう」

「少し会っただけじゃないか」

「それでも、私のワガママ聞いてくれて嬉しかった。ありがとう」

そういうと、緑間くんの頬に軽くキスをした。背伸びしてやっと届くとはいえ、ほとんど顎に近い。

「……っ?!」

頬を押さえて、緑間くんは唖然としていた。

「大好き」

恥ずかしいけど、それ以上に好きという感情が溢れてきて、言葉にしたくて仕方ない。
気持ちが喉から溢れ、声に出てしまう。
抑えようがない……。

そんな私の気持ちを察してか、彼はグイッと私の腕を引っ張り、自分の胸に抱き寄せた。
汗の匂いが少しする。でも、それは臭いってわけじゃなくて、ホッとする匂い。

「こんな気持ちになったのは……初めてなのだよ。言っておくが、俺も男だぞ」

心臓の部分に耳が触れ、その凄まじい鼓動を聞いた。彼も緊張してる……?

「……うん」

「お前は全然分かっていないのだよ、まったく」

そして、彼は抱き締めるのをやめて、体を離してしまった。

「分かってるよ」

「いーや、分かっていないのだよ。俺がどれだけ我慢しているのか、全然分かっていないのだよ」

「……我慢?」

「もう少し男心を勉強しろ」

緑間くんがそう言った。
彼なりに色々思うことがあるのかもしれない……。
私も、彼の気持ちをもっと理解しなくちゃ。

「じゃあ、またな」

緑間くんは私の頭を撫でると、そう言って帰って行った。

あの声も、背中も、手のひらも指先も、香りも瞳も何もかもが好き過ぎる。

急速に走り出した恋は、止まることを知らないのか。
初めて知った気がした。