もしも緑間くんと恋をしたら

(緑間くん、会いたい。どこにいるの?)

一先ずメールをした。
彼が行く宛……そんな場所知らない。

(何なのだよ)

意外と早く返ってくるメールに驚いた。
きっと彼は静かなところにいる。

(会いたい)

携帯を片手に、私は静かなところに目を向け、彼の姿を探した。
なかなか見つけられず、途方に暮れていた。

「ここにいるのだよ」

すると、前方から彼は向かってきて、やがて目の前に立ち止まり冷めた声色でそう言った。

「あ……」

私も足を止めて、目の前にいる彼を見上げた。
どうしてだろう。
さっき拭ったはずの涙の粒が、また瞳に浮かんできた。

「こちらに来るのだよ」

今にも泣き出しそうな私の手を引き、人気のない公園まで連れて行かれた。

その間、会話もなく、ただ手を引かれて公園まで連れて行かれた。
私は複雑な心境で、前を歩く彼の背中を見つめていた。

「座るのだよ」

静かな小さな公園のベンチ。
そこに座れと彼は言い放つ。

「……うん」

さっきまでものすごく怒っていたのに、この落ち着きはなんなのだろう。

「嫉妬、というものがこんなにもおぞましいとは知らなかった。面倒な感情なのだよ」

はぁー、と緑間くんが深い溜息をついた。

「ごめんなさい」

堪え切れず、私は涙をポロポロ落としてしまった。

「お、おい、な、何なのだよ」

緑間くんは慌てて、自分のハンカチを取り出した。綺麗に畳まれたハンカチだ。

「自分なんかを好いてくれる人なんていないと思ってた……。紫原くんがあんなことしてくるなんて、検討もつかなかったし、あるはずなかった……だから……」

「紫原がいつからお前を狙っていたのかは知らない。だが、これだけは言えるのだよ。俺はずっと見ていた。斉藤は覚えてないだろうが、一年生の時、俺がラッキーアイテムを落とした日のことだ」

緑間くんはこちらを見ることはなかったけど、ただ思いを伝えようと必死なのが伝わってきた。

「それはキーホルダーで、紐がちぎれてしまっていて、使い物にならなくなっていたんのだよ。お前はそれをすぐ拾ってくれて、更にはそのちぎれた部分を自分のキーホルダーの紐と交換してくれたのだ。大事なものなんでしょ?って」

(えっ……?全然、覚えてない……)

「その取り替えたキーホルダーは、麻雀牌だった。お前は、要らないヤツだったから大丈夫。そういって、去っていったのだよ」

(麻雀牌ってことは……私だ)

「それから、マネージャーの桃井とつるんでる事を知った。斉藤みちるって名前だったのも知っていた。だが、一度も同じクラスにはならなかったために、話す機会はなかったのだが……」

緑間くんがそんなふうに思ってくれていたなんて……。
私の涙は、驚きのあまり枯れていた。

「この前、お前がくれた麻雀牌のキーホルダー、あれは紐が変わっていたがあの時から持っているものだろ?」

言い終わったあと、荷が降りたかのようなスッキリとした表情で、緑間くんは体をこちらに向けた。

「すごい……そうだよ」

私のあの五筒は、小学校からずっと持っている物だった。
簡単に手放したけど、私はそれなりに大事にしていた。

「ずっと言えなかったのだよ。本当は前から好きだったってことが」

緑間くんの細い指が、私の頬についた涙を拭った。
ひんやりしていて、それに……震えていた。

「……緑間くん……」