緑間くんの歩くスピードが早い。
私が走ってようやく捕まえることができた。

「……っ!何なのだよ」

緑間くんは見たことも無い怖い顔をして、私を睨み付けた。

「……ごめん」

緑間くんに腕を捕まれ、壁に追い詰められた。

「うっ!!」

「紫原に奪われたその唇で、二度と俺を好きだなんて言うなよ。こんな屈辱は初めてなのだよ」

緑間くんはそう言って、私の腕を放した。
これは事故だったって、どうしても分かってもらえそうにない。

(どうしよう)

「みどちん、いいのー?俺がもらっても文句言わないでよー?」

あとから、紫原くんが呑気に現れ、そう言った。

まだ始まったばかりの恋なのに、何なの……この修羅場……。
恋人でも何でも無い状態なのに、どうしてこんなことになったの……。

「くれてやるのだよ。元々、付き合ってるわけじゃないのだからな。だから年上が良いと言ったのだよ、斉藤。隙がありすぎるのだよ、経験の浅い女は」

緑間くんの冷酷な瞳に見下され、ひどいことを言われたけれど、私はグッと涙を堪えた。

「みどちん、この子泣かせたら……ひねり潰すよ?」

「勝手にしろ」

私は去っていく緑間くんをそれ以上追えず、その場に座り込んでしまった。

今、追いかけたところで……さっきみたいなことになる。