「俺、知り合いにノリィ・ラックって奴が居るんです」
 自分の失敗に気付いて、とりあえず愛想笑いを浮かべた。
 しいんとした沈黙と、じとりとした視線が絡みつく。だけど俺はノリィ・ラックじゃないんだし、気にしなくても良いのである。……考えが痛いとかはなしね。
「貴方が城――いえ、警備隊に文句があるからと言い、私は気分を悪くすることはありません」
 ぴしゃりと言った彼女の翠の瞳が、俺を真っ直ぐに捕らえる。
 ひたむきで澄んだその瞳に、俺は動けなくなった。
 見惚れたわけじゃない。何かの上にある者の真っ直ぐな視線に、ただ感嘆した。
 俺は小さく苦笑する。もうこうなれば、メンタルショックなどくそ食らえだ。
「あなたの言うとおり、俺はノリィ・ラックです。何で名前を知ってるのかは分かりませんが、どうして、モンスターがこんなところに?」
 俺は少し苛立ちを含ませて、そう問いかけた。
 もしこれで変てこな理由だったら、ありったけの魔術で抗議してやろう。
「申し訳ありません」
 俺の考えを他所に、女の人はしおらしく頭を下げた。
「私達は報告があって、すぐにこちらへ向かったため、細かな情報が把握出来ていないのです」
 彼女は申し訳ないように目を伏せる。それは、思っていたよりも感情的な受け答えだった。もちろん、良い意味で、である。
 そうなんですか。そう言いかけて、俺は閉口した。
 彼女が、ぱっと顔を明るくさせたのだ。それは、初めに覚えた少しきつめの印象と相反して、こっちの調子を狂わせる。
「後日、あなたの宿に使いを送りましょう。貴方にはその権利があります」
「あ、ありがとうございます」
 何もそこまでしなくても、とは思いつつ、人の厚意を無碍にする訳にもいかない。俺は得意の〇円スマイルで、頭を下げた。