掌には、大振りの金の盃(さかずき)があった。美しい曲線を描くフォルムは、光を浴びてきらきらと輝く。
 その盃は、今朝、地下室へと隠された物だ。
 普通、地下室に移されれば、地下の鍵を持つ国王以外が開ける事は不可能になる。そうであるのに、掌に在るのは、確かに国宝だ。
 盗んだ張本人は、盃を握り込んで小さくすると、懐中へ戻した。
「怪盗ティーリアの復活劇は、ここまでとさせて頂きましょう」
 怪盗きどりはシルクハットを脱ぎ去り、深く頭を下げた。さらりと落ちた銀髪が、顔を隠し、部屋の光に反射する。
「捕らえろっ!」
 男の、掠れた声が命令を促した。
 しかし、怪盗きどりが起き上がった瞬間、目を開けられないほどの光が、部屋を埋め尽くした。日光よりも尚明るき白光は、視界の全てを奪う。
 部屋にいる誰もが目を瞑る。視界を奪われ、微動だに出来ずに。

 ――翌の月が満ちた夜、フィルミーの宝を頂戴致します。スティーリア。

 ほどなくして、光が消えた後。怪盗は跡形もなく消え去り、机上に突き刺さる、一枚の白きカードだけが残されていた。