「書いていたでしょう? 復活予告兼、怪盗予告に」
「ただの『英雄』気取りに、見える訳がないだろう? 言え、お前は誰だ」
 男がぴしゃりと言い放っても、怪盗きどりの口元には、笑みが浮かんだままだ。怪盗きどりは、腰にある黒いステッキを抜き去り、こつんと床に突き立てた。
「予告状通りです。どこからどう見ても、間違いはないでしょう。『私』は白いワイシャツに、黒のスラックス。そして、漆黒のステッキ」
 喋りながら、彼は空いた手を、スラックスの懐中に突っ込んだ。
 余裕たっぷりでなめた態度に、男は眉を寄せた。鋭い視線が、佇む者を射抜く。
「お前は国宝を盗もうとし、『英雄』気取りの罪人になる方が良いと言うのか」
「それは、どういう意味で?」
「今ここで捕まる事を望むのだろう、お前は」
「普通、私は捕まえるでしょう?」
 怪盗きどりは首を傾げた。罪人は普通、捕まえられなければならない。
 けれども、男は自嘲まじりに笑った。
「ああ、当然だ。未遂とは言え、罪人を逃がす馬鹿は居らん。しかし、先程の手際の良さを見せられて、見す見す見逃す馬鹿も居らんだろうな」
 罪を見逃す代わりに、国の駒となれ。男の笑みはそう告げていた。
 怪盗を気取る者は黙り込む。今の状況下、逃げることは先ず不可能だろう。しかし、答えを返す様子はない。
「どうやら……」
 小さく、怪盗きどりが言う。
 部屋の誰もが、聞き取ろうと耳を欹てた。
「勘違いをなさっているようで」
 佇む者はぼやいて、呆れたように肩を竦める。
「何の勘違いを、だ?」
「何をと、言われましても。そのままの意味ですが?」
 怪盗きどりはくすりと笑い、懐中に突っ込んでいた手を、すっと抜き出した。拳が開けられると、白光が掌を包み込む。
「……そ、れは……!」
 男が息を呑んだ。掌に現れた物は予想外の代物で、驚くほかなかった。警備兵達にも動揺が走り、 大部屋がざわりと色めき立つ。