空気の入れ替えをするために、誰も居なくなったウエディング施設に時折足を運ぶ。
父の形見に残した物は、包丁セットで普段使いのできる一振り以外は包丁ケースに入れてしまってある。
牛刀や刺身包丁の曇りやサビが無いのか時折取り出して見る。
隼人さんと私はきちんと両思いだった。踏み出す勇気がなくて、ずっとこんな状態のままで。
包丁の輝きに胸を刺されるように痛みがある。
私は最高の男性を好きになった。
支えてもらって、そばにいてくれて。どれだけ感謝しても足らない。それでも彼の望む、たったひとつのものを差し出せなかった。
自分の気持ちは、山並さんに奪われていたからだ。



