特に迷惑をかけたつもりはないものの、何か不快に思うこともあったんだろう。
「わかりました。今日は7時あがりなので、その時刻に向かい側のコーヒーショップにいてください」
「必ず来てね。約束よ」
そう言って、にこりと笑った顔はやはり可愛らしく羨ましくなってしまった。
7時に仕事を終えて、急いで着替えてコーヒーショップに向かうと、もう彼女は席について待っていて、こちらに気がつくと手を振って招いてくれた。
「お待たせしてすみません」
「いいのよ。気にしないで。仕事終わりに急がせちゃって、こちらこそごめんなさい」
にこりと笑った顔は、やっぱり可愛くて胸が痛くなった。
「あの、どういったご用件でしょうか」
「鉄ちゃんのことで話があったの。カメラマンの山並鉄二よ」
わかっていたことながら、辛い。今すぐ逃げ出したい気持ちを抑えて手をにぎる。
「鉄ちゃんがマッキンリーに行くのは知っているかしら。今雪山に行ってるけど、明日帰宅して明後日の出発になるの」



