こんなことを聞いたら、盗み聞きしていたことがわかってしまうのに、どうしても知りたかった。
「……聞こえてましたか」
声が出せなくて、返事のために頷く。山並さんは困ったように視線を伏せ、それから顔をあげて見つめられる。
「山に行こうと思っています。北米のマッキンリーという山で、二週間後出発します。だいたい1ヶ月ほどで登頂してまた戻る予定です」
「……どうして行ってしまうの」
山並さんは、また戻ってくると言ったのに、本当にまたここに帰ってこれるのか、それはわからない。
相手は自然で、山なのだから。
「昔からの友人のつてで、登山隊に加わるチャンスがきたんです。その友人というのが、記録係としてのカメラマンを必要としていて、八千メートル級の山に登れる機会がきたんです。この機会を逃したら、きっと一生登ることなんてできない」
ひどく真剣な山並さんがそこにいた。
山のことなんて何も知らない私には、どう答えていいものかわからない。
ただ、とても貴重なチャンスだというのはわかった。



