雨上がりの虹のむこうに


 山並さんはぱちぱちと瞬きして頷いた。

「あまり時間はかからないと思います。しばらく借りてもいいですか」

「まだ山並さんは休憩時間ですよね。アルバムの話をしていた時間もあるので、そのぶんゆっくり休んでください」

 二人に一礼して、早く見えない程度に急いで部屋を出る。

 部屋を出るなり、その場に座り込んでしまった。緊張で手は震えているし、なんだか立っていられないくらいびっくりしていた。

 山並さんに彼女がいたなんて。

 不器用そうでいて、それでいて気が利く山並さんなら居てもおかしくなんてなかった。

 はあっとため息がもれる。

 この建物を買い取るために仕事仕事で来てしまった私には縁のないことだった。

 なんだかそのことで、自分がどうしようもなく魅力のないものに思えてきた。

 営業スマイルも、そんな自信のない自分を守るためのもの。

 だってこの建物、とっても高いんだもの。

 両親も親戚も居ない私に、唯一幸せな記憶を思い出させてくれるものだから、どうしてもこの場所が欲しかった。

 ………頑張ってお金を貯めよう。

 よしっと気合いを入れて立ち上がる。

 これからの予定を考えて、頭の中をそのことでいっぱいにした。