山並さんの言葉がくるくると胸で舞っている。それは温かくて、くすぐったい優しいものだった。
自然と目尻が下がり笑顔になる。
心のどこかでは、この笑顔は正しい笑顔ではないとわかっていた。きっと鏡を見たなら、目が細くなりすぎているだろうし、目尻にしわが寄っているはず。
それでも、山並さんに見られるならいいと思えた。
家族のない私が、誰かを頼ったり、誰かに甘えたりすることは出来なかった。
フランス大使夫妻も、ミシェルも、勇人さんも迷惑をかけてばかりで、そんな皆に好かれなくても嫌われたくなくて、何でも完璧にこなしてきたつもりだった。
回りを見れば、家柄の良いご友人や、お嬢様
ばかりで、その中でなんとか自分を保っていられるのだとしたら、立ち居振る舞いや勉強でしかなかった。
生まれの違いだから顔形はどうしようもなくても、恥ずかしくないだけのマナーは必死で覚えた。
その自分の武器はこの人には通用しない。
きっと山並さんは、私が必死に隠してきた私自身を見ようとしてくれている。
そう思えたら嬉しかった。



