引き出しを開けると、紙袋を取り出す。

「ここに来るために食事を抜いているなら、これからは顔を合わせたりしません。キチンと食べて帰って下さい」

 紙袋を見たとたんに、勇人さんの目がふにゃんととろける。

「ここのパン好きなんだー。優ちゃん覚えていてくれたんだね」

 ちなみに勇人さんが好きなのは、枝豆とチーズ、ベーコンの入ったパンと、チョコレートのはいったクロワッサンで、子供の時好きだったものそのまま。

「パンだったら、車での移動中にも食べられるでしょう? 」

「そうだね。優ちゃんは優しいね。僕のことになるとお見通しだね」

 苦く笑った顔は、大人の見慣れない勇人さんだった。それも瞬きする間に消えて、人好きのするワンコの顔になる。

「優ちゃん僕を置いて変わったりしないでね」

 そう言った勇人さんは、迎えに来た秘書に引っ張られるようにして、部屋を出て行った。

 忙しさは変わらないはずなのに、どうして訪問回数が増えているのかわからない。食事に誘うのも、一週間に一度に増えている。おかけで毎回行くことは出来なくなってきたけれど、なるべく予定に添うようにしている。