雨上がりの虹のむこうに


 電話を切ると、後ろから抱きしめられた。

「……探した」

 包まれる爽やかな香りに隼人さんだとわかった。

「どこかに行く訳ないでしょ」

「それでも…ご両親がこんなことになって、発作的にゆうちゃんが何かしてしまったらって……考えたら怖かった」

 お腹に回された手をぽんぽんと叩く。

「ひとりでどこかに行かないで。僕とじゃ恥ずかしいなら、丸山とでもいいから……ひとりにはならないで」

 声が詰まる。背中から抱きしめられているので顔は見えないけれど、泣いているような声だった。

「私が隼人さんやミシェルを置いてどこかに行くことなんてないわよ。私の家は大使館だし、隼人さんとはずうっと幼なじみだもの」


 今のところは。そう心の中で付け加える。

 父や母が亡くなった今、このまま大使館の使用人として住み続けることはできないだろう。

 どうしたらいいのか、わからない。それでも幼なじみである隼人さんには、お姉さんぶって強がってしまう。