大好きなんです【短編集】



病院に行くと、章太の家族や友達が手術室の前に立っていた。



「あ、柚香ちゃん...」



そう言って章太のお母さんは、涙目で私を見た。


周りの人達も、すごく暗い顔色だった。


章太が死んじゃうかもしれない。


そんな恐怖で胸がいっぱいになった。


それからしばらくして、手術室から医師の先生が出てきた。



「先生...章太はっ」



章太のお母さんがすぐに駆けつけて、そう聞いた。


でも、先生は暗い顔でうつむくばかり。



「傷が、深すぎます。

頭も打っているので...最善は尽くしたのですが」


「そんな、」



その瞬間、章太のお母さんが泣き崩れた。


他の皆も、一気に涙を流し始めた。


でも、私はなぜか涙が出なかった。


ただ頭の中が真っ白になって、状況が理解できなくて。



「章太くんは病室にいます。

最期のあいさつを...してあげてください」



先生の言葉に従うまま、皆は重い足取りで病室へと向かう。


私も、軽くよろめきながら皆の後をついて行った。