「おいでぇぇ……こっちにおいでぇぇぇ……」
鏡を叩いていても、引っ掻いても、私達が近寄らないと判断したのか、ナニかが鏡の中で手招きをして誘っている。
「私を見て」だけじゃなく、こっちにおいでまで言うようになった。
日が経つにつれて、ナニかの言葉が増えている……。
いや、昨日のが夢だとしたら、そうとも言えないかもしれないけど。
「こっちに来いって言ってるよ……ど、どうする?素早く通り抜ける?それとも向こうの階段から下りる?」
京介の制服の袖を引っ張って尋ねたけど……その京介はなぜかピンときていないようで。
「ん?そんな事言ってるのか?俺には、鏡に張り付いて睨んでるようにしか見えねえんだけどよ……」
「え、あんなにはっきり言ってるじゃない!聞こえないの!?」
思わず声を荒げてしまったけど……昨日の夜も、真弥ちゃんのお母さんにはナニかの声は聞こえてなかったみたいだし……。
でも、あれは夢の中の話だから……あー、もう!どこまでが夢か現実かさっぱりわからない。
「まあ良いよ。とりあえず反対側の階段に……」
と、私が振り返った時だった。
ドンッと、強い衝撃が肩に走ったのは。



