キーを差し込み、回す。
エンジン音が響いた。



桃ちゃんのところに戻ると、なぜか飛び上がっていた。
変な子だ。
今更だけど、変な子だ。

「おまたせー、桃ちゃん」

桃ちゃんはパッと振り向くと、嬉しそうに顔をほころばせた。

「全然待ってないので大丈夫です!!」


計算の無い笑顔?
それとも何か裏がある?


…あるわけないか。
バカだし。



「はい、ヘルメット」
「ありがとうございます」

俺が差し出したヘルメットを両手で受け取ると、スポッと頭にかぶせた。
明らかに向きが逆。

「桃ちゃん、反対だよ」
「ふぁい?」

当たり前だけど声がくぐもってまるで別人みたいになっている。
少しだけ笑うと、俺はそのヘルメットを外した。

静電気で髪がふわ、と逆立った。

「あはは、髪がボサってなっちゃったねー」
「いつものことですから…」

顔を真っ赤にして、忌わしそうに髪を両手でおさえる桃ちゃん。

べつに、そんな変でもないのに、コンプレックスをどこに抱くのかよくわかんない。顔はかわいいし、制服に合うし、次に気にすべきなのは成績じゃないの?


デザイン科だから気にならないの?そこまで馬鹿なのかよ。


「えー、なんで?ぼさぼさでも可愛いからいいよ」

黒い考えを悟られないように、適当にごまかす。

「ああ…かわ…えええ!?」
「ん?」
「かわ、かわいくないです!!!!」
「あはは、桃ちゃんおもしろい顔ー」

飽きないね。

「後ろにどうぞ、桃ちゃん」



少しだけ楽しくなった、そんな夕方。