チェス

僕らが地上に出たあの日を境に、世界はすっかり変わってしまった。物語のヒーローになれなかった僕たちは、正義が何かもわからず、ただ降り注ぐ日差しを、全身を渡る風を、そして平和な地上と人々を守るために戦っている。

「らんちゃん、良君の攻撃力の強化」
「了解」
刀や銃弾がぶつかり合い、火花を散らしている。ときおり見える赤いゆらめく炎や、滝のような水は、まるでこの「舞台(ステージ)」を飲み込んでしまいそうだ。
「あまり有利な状況とは言えない、かな。」
戦場より少し離れた茂みの中で、如月奏矢は呟いた。     
戦場から聞こえる悲鳴が敵のものだけではないことは、僕が一番よく知っている。
だから
「カチリ」
軽い衝撃と共に銃口がほのかに熱をおびる。
「守らないといけないよね」
その時、背後でかすかにカサリと音がした。
「はっ!」
反射で引き金を引くのと、頭部に強い衝撃を感じたのはほとんど同時だった。
「うっ」
視界がぼやけてゆき、体が沈んでゆく…。
その脳裏に浮かんだのは
地上侵略の命令を受けたあの日の事だった。