はぁ、はぁ。一は川辺に潜んでいた。

それにしても、腹が減った。辺りはすでに暗くなりはじめていた。

しかし、全国に遅刻者が俺だけなわけはないんじゃないか?

ふと思った。そして同じ境遇の哀れな小豚ちゃんがいるのではないだろうか。

しくしく。

川の橋の下に3人のむさい男が円を組んでないているのが見えた。

「遅刻しただけで、死刑だなんて、あんまりだ… 」

いた…。

一はそろそろと忍びよった。

いち早く一に気付いたらしく、一人の男は警戒し、一斉に逃げ出した。

「まって!俺も同じなんです!」

一の声に気がつき、3人は止まった。

「君も…か?」

「はい、寝坊しました。」

とても安心した。そして涙がでてきた。
下半身は丸出しだった。とても元気がなく、小さく縮んでみえた。

話を聞くとまったく同じ境遇の3人だった。

朝起きて、遅刻で、色んな人に追い回されて。捕まったらどうなるんだ?

「即日、執行だってさ」

「何が?」

「絞首刑…」

一人のサラリーマン風の男はラジオを聞いていた。

ガガ…本日…ピー…無断遅刻法が施行されるにあたり、逮捕された人数は全国で一万人を越えるとされ、夕方未明に刑の執行が…ガガガ…

3人は無言だった。

怯える小豚の一人、ガタイはいいが本当に太った豚が言った。

「もう、ダメなのかな。遅刻した僕が悪いんだよね。僕は航空自衛隊の隊員で、今日のフライト訓練に遅刻しちゃって。」

ポリポリとスナック菓子をかじりながらいった。

絶望的な気分に一はなった。

「君も食べる?」

腹が無性に減っていた一は、ありがたく食べた。

「ブヒヒ…」

笑い声が聞こえた。

おま、豚…

急に重力が逆転したような錯覚に落ち、地面の草にキスをしていた。

薄れる意識の中、一は思った。

とべなかった豚は、ただの醜い豚…