ふるふると首を振ることで否定するハル。嘘ではなくて本当に痛くないのだろう。それが分かっているソウは深く追求せず、棚から救急箱を取り出す。それを持ってベッドに座ると、ちょいちょいとハルに手招き。


恐る恐る、といった様子で、ハルはソウに近づく。それに顔を綻ばせ、ソウは何もしないから、と一言。勿論手当て以外のことは、という意味である。

「沁みるかもしれないけど……、うん、ちょっと我慢な」

「……ん」


ハルは素直に手を差し出す。その手を引き寄せて傷口を見てみれば、ぱっくりと割れてはいるが縫うほどでもない。


傷口に消毒液をかけ、ガーゼを当ててから包帯でくるくると巻いていく。ハルの表情を窺い見れば、あまり変わっていない。それにどう反応すればいいのか分からなくなりながらも、ソウは終わり、と口にする。


すぐに身をソウから遠ざけたハルは、包帯の巻かれた手をじっと見つめる。ソウはその様子をさらっと視線で撫でる。怪我をしているのは手だけのようで、他は幸い怪我はしていないよう。


「……一人で食えるか」


それに安堵しつつ、ソウはハルにお粥の器を差し出す。頷いてからそれを受け取ったハルは、匙で掬いながらゆっくり食べていく。恐らく最近はあまり食べていなかったのだろうから、急いで食べるのはきついものがある。故に、ゆっくりなのにも頷ける。


たっぷり一時間、時間を掛けて漸くお茶碗に半分くらいを食べたハルは、残り半分を器に残したままソウにそれを差し出す。これ以上は身体が受け付けないらしい。無理に食べさせても無駄なのは分かっているため、ソウは何を言うでもなく素直にそれを受け取る。


器を机に置き、また少し怯えの表情を解いたハルを、ソウは強引に抱き寄せた。暴力を振るわれるとでも思ったのか、ハルはソウから逃れようと暴れる。


そんなハルに辛そうな表情を浮かべるソウ。ソウはハル、と優しい声でハルを呼ぶ。


「泣きな、ハル。何もないから、俺は何もしないから」


だからハル、泣け。


泣き声が漏れた。紛れもなくハルの泣き声。


どれだけ我慢していたのか、涙腺と心のダムが決壊したハルは、大声で泣く。ソウは漸く泣いたハルを、ぎゅっと力強く抱き締める。