風が吹く。春一番とでも言いたげな風は、しかし春一番ではない。二週間ほど前に、既に春一番は来ているからだ。


手に持った荷物を持ち直し、ソウは一つ溜め息を吐く。風向きは南、即ち向かい風。この向かい風の中、あの距離を歩くのは厳しいものがある。しかし選んだのは自分なのだし、帰る場所はあそこしかないのだから立ち止まるわけにもいかない。


もう一度溜め息を吐き、ソウは前に視線を投げる。と、ソウの視線が何かを捉えた。


「――――ひ、と?」


疑問系なのは、『それ』が蹲っているようだったから。肩からずり落ちる荷物を揺らしながら、ソウは歩みを進めていく。


『それ』を人だと認識して、ソウは歩みを止めた。上からその人――――その子、を見下ろす。子、というのは、身体が小さかったからだ。


「――――おい、大丈夫か」


反応はない。眉をしかめ、少し考えてから身体を屈めるソウ。それからもう一度、大丈夫かと問いかける。


ぴくり、肩を揺らした。ゆっくりと顔を上げる子供。視線が合うと、ソウは思わず息を呑む。


「――――」


子供が何かを呟く。聞き取れずに、ソウは眉を寄せる。聞き返そうと、顔を子供に寄せた――――その時だった。


急に襲い掛かってきた子供に、ソウは後ろへ倒れ込んだ。


「ヴヴ……」

「――――っ、」


子供の細い手が、子供とは思えない力でソウの首に食い込む。逃れようとするけれど、荷物に腕を取られ、ソウは思うように動きが取れない。


息が詰まる。苦しくて、酸素を求めて喘ぐ。堕ちそうになる意識の中、ソウはうっすらと瞳を開いた。――――と。


視線が、子供の顔を捉える。くるくる、ころころと変わる表情に、鈍い思考回路でソウは一つのことに思い至る。ぐるり、身体を捻って何とか拘束から抜け出すと、ゲホゲホと咳き込みながら子供と距離を取った。


息を整え、再度子供に視線を向ける。いつの間にか意識を失ったらしい子供は、その場に倒れ瞼を閉じている。