俺様主人は時に甘い


鈴菜に先輩と離れた方がいいと言われてからほんの数時間後。


私は住宅街をいつもよりも遅いペースで歩いている。


いつもと違うことは、隣りに先輩がいることで。


二人の距離は約1メートル。


学校から一言も話さず、この距離を保っている。





なんで私と先輩が二人でいるのか。


それは田中先生の一言だった。



部活が終わり、片付けをしていると顧問から集合がかかった。


なんでも、この辺で刃物を持った不審者がウロついてるという。


なるべくまとまって帰るように、と指示を受けたとこまではいいんだけど。



『なら、落合は笠原に送ってもらいましょう。女の子だし、家までちゃんと送り届けないと』



田中先生の全く迷惑な提案に、『は?』
と先輩と私の声が被った。



先輩が『なら先生が車で送った方が安全ですよ』と慌てて言うものの、田中先生は『やらなきゃいけないことが山積みなんだ』の一点張りで。


終いには、『わかってるな?笠原』と意味有りげな表情で先輩に圧力を掛けていた。