もうこうなったら、自分で振り払うしかない。
腕を思いっきり大きく回そうとした時。
「ミヤ」
急に呼ばれて、「ふぇ?」と素っ頓狂な声が出てしまった。
「その電話の相手が陽平じゃなかったらどうする?」
「どういうことですか?」
「だってそうだろ?電話の相手なんて見えないんだし。それが本当に陽平だったって言えるか?」
確かに、先輩の言う通り電話の向こう側の人のことは見えない。
だけど、あれは絶対に先生だよ。
「言えます。あれは先生でした」
「本当に?」
「本当に本当です!電話の人は私の気持ちを理解してくれました。言ってほしい言葉をくれました。あの時はまだ私のこと知らないハズなのに、電話の内容と私の暗い声だけで私をわかってくれたんです」
電話の開口一番は無愛想だなって思ったけど、話してみたら本当に優しくて温かい人だと思った。
人の気持ちを大切にする素敵な先生だなって、先生に会うのが楽しみになった。
「先生のクラスになって毎日見ていたらわかります。田中先生は生徒一人一人をよく見てくれる素敵な先生です。あの電話は確かに先生でした」