「雅、ありがとな」
「……先輩?」
「まだお礼言ってなかったから。あのまま片意地張ってたら、俺後悔するところだった。雅のお陰で親父と最後の最後で家族に戻れたんだ」
先輩の声が心なしか震えてる。
声だけでなく、瞳も揺れていた。
「初めて見舞いに行った日、一回顔を見て許せなそうなら何も言わずに帰ろうと思ってた」
「そう…だったんですか」
「でも、顔を見たら許せてる自分に気付いて、正直戸惑った。こんな簡単に許していいのか、こいつは母さんを追い詰めた張本人だぞって」
あの時、先輩は一言も話さずに壁に寄りかかって外を眺めていた。
あれは自分に問い掛けていたんだね。
まだ許しちゃいけないって思う自分も僅かながら存在して、その僅かな自分に。
「でも、親父と雅の話を聞いて嬉しく思う自分がいた。まさか親父が学校にちょくちょく見に来てたなんてな。一歩間違えれば変質者だぜ?」
そう言って、ふっと笑うと、先輩は空を見上げた。

