俺様主人は時に甘い


「私はね、女の子が欲しかったんだ」と茶目っ気たっぷりにウィンクをするお父さんに笑みが零れる。



「じゃあ、皆で行こうか。花火大会」



私は知る由もなかった。



お父さんのとびっきり優しい笑顔を見るのは、これが最後になるということをーーー。









二週間後、花火大会。



ドーンッ、と色取り取りの花火が真っ黒な空に打ち上げられる。


その度にあちこちから「うわぁ」と感嘆の声が聞こえ、会場は大いに盛り上がっていた。



「綺麗ですね」


「ああ」


「綺麗だけど、儚い。ホント一瞬の輝きで……だからこそ素敵なんですよね」


「……そうだな」



先輩と手を繋ぎ、会場の端の方で立ち見客に混じって空を見上げる。


次から次へ打ち上げられる花火。


いつもなら幸せな気分になれるのに、今日はその儚さに涙が滲む。



「お父さんにも見せたかったな……」


「……」


「一緒に、見たかっ……」



お父さんとスイカを食べながら約束した。


皆で見に行こうって。


レジャーシートを敷いて、お菓子やおつまみを持って。



楽しみだねって、そう話してから二週間しか経ってないのに。