だけど、先輩はお父さんを見ることもなく返事を返しもしない。
ただ壁に凭れて窓の外を眺めているだけ。
ここまで来て素直じゃないんだから。
そう思うけど、ここまで来たことが進歩だし。
少しだけど、まだ時間はある。
今日話せなくたって、また次話せばいい。
あまりゆっくりは出来ないけど、限られた時間の中で二人のペースで歩み寄ればいいと思う。
「ったく、相変わらずだな慶吾は」
先生は苦笑いを浮かべつつも、やっぱり嬉しそうだ。
家族がまた一つになれる日が近付いてる。
嬉しくないわけがない。
多分、先生はずっと願っていたんだと思うから。
「あの、これ」と持ってきたお花をお父さんに渡すと、お父さんは花の香りを楽しむ。
「いい香りだ。それに、綺麗なガーベラだな。ありがとう」
「これ慶吾さんが選んだんですよ」
ふふ、と先輩の方を見ると、先輩は顔をパッと逸らした。
だけど、隠しきれてない。
耳まで真っ赤になってるところを見るあたり、相当照れてるんだな、あれは。

