溺愛オフィス



「うう……抜けない!」


足に力を入れて引いてみても、マンホールの穴にしっかりハマってしまったようで動く気配すらない。

というか、片足で踏ん張るからバランスがとれなくてフラフラしちゃう。

それでもどうにか頑張っていたら。


「マヌケだな」


……桜庭さんに小さく笑われた。

唇を緩め、ククと喉奥から聞こえる低い声。

桜庭さんはいつもクールなイメージがあるから、こんな風に笑ってるのって貴重な気がする。


「ほら、支えてやる」


言いながら、桜庭さんが手を差し伸べてくれた。

けれど、触れるということに緊張を覚え、私の体が一瞬強張る。


だ、大丈夫。

ただ支えてもらうだけ。

仕事中に手が触れるのは平気。

それと同じだ私!