「……クソッ」 小さく聞こえた、桜庭さんの声。 強く握られた拳が、悔しさのせいか震えている。 何て、声をかけたらいいのかわからない。 嵐の日、私を助けてくれた桜庭さんのように、何か出来ることはないの? 考えてみても、何も浮かぶことはなく。 私が出来たのは…… 自分の傘で、彼を雨から守ることだけで。 「……おかえりなさい」 かけることのできた言葉も それだけだった。